分子夾雑の生命化学

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海外研究者招へい報告 ( A02 計画班 : 田中先生 )

海外研究者招へい報告書

 

神戸大学大学院システム情報学研究科 田中成典

 

計画研究A02班「水を通して見る生体分子夾雑系の情報熱力学」グループでは、20193 1日~10日に、Karlsruhe Institute of TechnologyScientific Research WorkerであるJewgeni Starikow博士を日本に招聘し、細胞内の生体高分子の分子動力学(MD)シミュレーションに関する共同研究を推進するために、密接な議論やセミナーを行った。

Starikow博士は生体分子系の分子シミュレーションや熱力学の分野で国際的に著名な研究者であり、つい最近も、熱力学の隠れた歴史を明らかにした、「A Different Thermodynamics and Its True Heroes」(Pan Stanford Publishing, 2019)という800ページを超える著書を出版している。Starikow博士と田中とは、長年、生体高分子シミュレーションに関する共同研究を行ってきており、今回の来日では特に、分子夾雑環境下で使える新たなシミュレーション解析手法の共同開発を念頭に置いて議論を行った。

具体的には、今回の神戸大学滞在中に、ガン関連遺伝子としてよく知られているRasタンパク質が細胞内シグナル伝達経路で相互作用するRafならびにGAPタンパク質と複合体を形成する際の情報伝達過程を統計熱力学的に記述するために、Factor Analysisの手法を活用する理論的枠組の定式化ならびに計算のコーディングに関して、連携研究者の栗崎以久男博士も交えて議論した。また、35日には神戸大学自然科学4号館において、関連したセミナー講演「Saddle Points on the Potential Energy Hypersurface: Legacy of Ken’ichi Fukui」を行っていただいた。このセミナーには神戸大学内外から約15名が参加し、計画研究A02班メンバーの参加もあって活発な議論が行われた。

 Starikow博士の今回の来日を契機に、生体分子夾雑系の理論的解明の進展が期待される。

 

Evgeni B. Starikow博士