分子夾雑の生命化学

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領域内容

領域及び計画研究の具体的な達成目標

 本研究領域では、細胞や生体分子の機能解析などの基礎研究からバイオデバイス開発などの応用研究までを含めた総合的な生命化学研究を展開します。しかし本領域では、従来からの基礎から応用へという一方向の研究の流れに捉われず、機能性分子の開発 (A01 班:浜地) からバイオ解析 (A02班:杉本) とデバイス開発 (A03班:馬場) の双方向へ、あるいは、その逆の流れを含めた研究分野間の相互循環と連携によって、新時代の生命化学研究である分子夾雑化学を創出することを目指します。

 生体分子の機能を化学的に解析し、生命現象を明らかにする生命化学研究は、生物有機化学、生体関連化学、ケミカルバイオロジーといった研究分野において、過去50年にわたり世界中の研究者によりさかんに研究されてきました。現在、生命化学研究は、分子夾雑環境である細胞や組織、生物個体における、ありのままの生体分子の機能を捉えて解析する段階にあります。しかし、従来の解析法を生体複雑系に持ち込むこむことができない技術的制約や、分子夾雑環境としての細胞場の理解の欠如に阻まれて、生命化学研究の進歩は足踏みをして、試行錯誤を続けている状況です。このような現状から脱却するためには、研究者が知識、発想、技術を持ち寄り、協働して生命化学研究に取り組むことのできる新たな研究領域の設定が重要です。本領域研究を通じて、細胞生体システムの本質を知り、自在に制御し、医工学への応用を切り拓くことで、我が国から生命化学研究のパラダイムシフトを引き起こすことができると考えています。

 本研究領域は、合成化学を中心とした「生体分子を機能解析する人工分子の創成」、物理・計算化学を中心とした「夾雑環境にある細胞場の定量解析技術の創成」、分析・応用化学を中心とした「生体場の化学を取り入れた新しいナノバイオデバイスの創成」の3つの研究項目から構成されています。本領域研究では、これまで精製された理想的な希釈溶液系で行われてきた生命化学研究を細胞夾雑環境へと一歩推し進めて、非理想状態にある分子夾雑な環境で機能する生体分子システムの本質を理解することを目指します。また、これらの基礎研究から得られる新しい知見に基づいて、医療診断、生体イメージング、創薬開発などを確信する新しい化学技術やデバイスの開発を目指します。

研究テーマ

A01班:分子夾雑の合成化学-生体分子を機能解析する人工分子の創成

 分子夾雑な環境でも、試験管実験系と同様の精度・効率を示す有機化学反応の探索・開拓を行い、生細胞や組織、ひいてはin vivo夾雑環境においても活用する事が出来る分子ツールや蛍光プローブを開発します。これらを基軸としてタンパク質や脂質、糖質などを中心に様々な生体(機能)分子の細胞夾雑環境でのケミカルバイオロジー研究、これまで明らかになっていない機能の定量的な解析を達成することを目指します。また、細胞内の分子クラウディング状態の解析やバイオデバイスへと応用できる分子プローブを開発し、A02班、A03班と共同して細胞夾雑系の物理状態の定量解析を進め、ひいては医療診断への応用を展開します。また、上記の基盤的な研究に基づいて、ガンなどの重要な疾病に関与する特定のタンパク質機能を不可逆的に阻害することの出来る新規なコバレントドラッグを創出し、タンパク質に対する有機化学反応の創薬応用への道筋を確立して行きます。この応用展開として、肺がんならびにマラリア、結核などの感染症を対象とする創薬研究を進め、企業との連携も視野に産学連携をも進めます。以上の研究から、欧米で活発に研究が進められているバイオオルソゴナル(生体直行性)ケミストリーに比肩する我が国独自のの「分子夾雑の有機化学」の確立が大きな目標でもあります。また、植物ホルモン受容体の機能を解析・制御する新しい分子ツールや、植物の酵素反応や情報伝達を可視化する事のできる蛍光分子プローブを、独自の化合物ライブラリーを活用して複数創出し、植物のケミカルバイオロジー研究を新たな分野として切り拓いていきます。

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A02班:分子夾雑の物理・計算化学-細胞場の定量解析技術の創成

 分子夾雑環境にあるタンパク質、核酸など生体分子の機能や物性の解析を行う。細胞場の物理化学的理解を目指して、細胞機能ユニットであるオルガネラにおける環境因子を計測し、これらの環境変動が細胞の状態や生体分子の機能と、どのように連動するかを体系的に明らかにします。これにより、細胞の機能―環境定量相関(QFER: Quantitative Function – Environment Relationship)を提唱します。その基盤として、生体分子を用いて各オルガネラの細胞場を精密に再現した細胞模倣実験系を創製し、細胞場における核酸やタンパク質の構造や安定性を熱力学的・速度論的に解析する。実験結果と計算シミュレーションの予測を連動させて、細胞環境因子による生体分子の機能制御、すなわち「細胞環境因子がセントラルドグマを自在に操る」という新概念を提唱します。

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A03班:分子夾雑の分析・応用化学-細胞場の化学を取り入れたバイオデバイスの創成

 分子夾雑での生体分子の機能を活用して次世代ナノバイオデバイスの創生を実現します。例えば、代謝産物や分泌物を高精度に解析するナノバイオ分子夾雑デバイスを開発します。A01班が開発したセンサー分子を活用し、がん細胞を取り巻く病態環境を構成する細胞外夾雑物をマッピングすることで、新たながんマーカー診断デバイスを目指します。また、細胞内夾雑環境をマイクロデバイスにより再現・制御する細胞融合デバイスを開発します。A02班の研究から得られた知見を取り入れて夾雑環境を理解し、これを取り入れた化学反応リアクターの開発や創薬スクリーニングへの応用を目指します。さらに、これらのデバイスを夾雑環境の医療・診断応用に展開します。がん化や脳神経の変性に伴うエピゲノム修飾の追跡技術を確立して、診断に役立てる道筋を立てます。

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