分子夾雑の生命化学

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小分子や光に応答してタンパク質活性を隔離・放出する人工オルガネラの開発(A01公募班:築地先生)

A01公募班の築地真也先生(名古屋工業大学大学院工学研究科生命・応用化学専攻)の研究グループは、細胞内タンパク質の活性を人為的に制御するための新たな手法として、小分子や光に応答して標的タンパク質を隔離あるいは放出することのできる人工オルガネラを生きた細胞内に構築することに成功しました。

本研究では、細胞内で自己集合することで相分離構造体を形成する人工タンパク質を設計し、それと化学的二量化誘導法を組み合わせることで、小分子に応答して標的タンパク質を急速に取り込むことのできるタンパク質ベースの非膜人工オルガネラ(人工タンパク質コンデンセート)を構築しました。このシステムとプロテアーゼを融合することで、初期状態では人工オルガネラに隔離された状態の標的タンパク質を、小分子の添加によって細胞質へ放出するシステムの創製にも成功しました。さらに、標的タンパク質の放出と隔離を光によって繰り返し誘導することのできる光応答性人工オルガネラシステムの構築にも成功しました。これらのシステムでは、標的タンパク質の人工オルガネラへの取り込み(隔離)によって不活性化を、放出によって活性化を誘導することができ、実際に、細胞運動や情報伝達に関与するシグナルタンパク質の活性を小分子の添加や光照射によって分オーダーで制御できることが示されました。

タンパク質を人工オルガネラに隔離することで不活性化するという戦略は、さまざまな細胞内タンパク質の活性制御に適用できる汎用的な原理になるものと考えられます。本成果は、これまで有効な制御法のなかったタンパク質の活性制御へ向けた新しい方法論を提供するものであり、生命研究や合成生物学に大きく貢献することが期待されます。また本成果は、人工設計タンパク質の自己集合・相分離を利用することで、生きた細胞内に機能性人工タンパク質コンデンセートを構築できることを示す先駆的な例であり、今後、さまざまな生命現象や細胞機能を操作する新しい人工オルガネラシステムやソフトマテリアルの開発につながるものと期待されます。

以上の研究成果は、アメリカ化学会が出版する国際科学誌「Journal of the American Chemical Society」に20214月23日付けオンライン版で掲載されました。

Synthetic Protein Condensates That Inducibly Recruit and Release Protein Activity in Living Cells